8月11日(土)
急な話で、北岳にアルバイトに行くことになった。すごく曖昧な指示だが、11日中に北岳山荘に来いと言われた。手がかりはそれしかない。とにかく来ればわかるらしい。どうもボッカらしい。
急行アルプス、朝一バスと乗り継ぎ、広河原に着く。荷物はとにかく減らせと言われていたので(着るものも減らして来いといわれたので、Tシャツと雨具しか持っていかなかったら、上でとても寒い目にあった)、非常に軽く、すたこらさっさと登る。でも雨につかまり、独り黙々登る。バイトじゃなかったら絶対登らない天気だ、とか思っていたら、結構たくさんの人が登ったり降りたりしている。みんな大変だなあ。親に無理矢理「山は良いぞう」と言われて連れてこられた小学生・斉藤岳(9歳仮名)は本当につらそうな顔をしているがおやじの斉藤義男(35歳仮名)は「空は雨でも山は良いもんだわっはっは」と笑っている。かわいそうだ。
そうこうしているうちに肩の小屋に着いた。こんな悪い天気でも突っ込んでいくおばちゃんたちは見ていて怖い。でも僕も突っ込んでいくので同類、目くそ鼻くそにむかつくというやつだ。
ほうほうの体で北岳山荘に着いたが、この日はまだバイトの全容は明らかにならなかった。
8月12日(日)
天気がいまいちなので一日中小屋にいた。お弁当づくりの手伝いをした。不思議な名称の具「びたこん」は「ビタミン昆布」の略らしい。ひとつひとつ考えられて具は決まっているらしいが、毎日中身は一緒らしい。ドラエもんのお姉さん(ドラミちゃんは妹)に「髭良いですね」と言われ、この日は一日中機嫌が良かった。なんだか意味のない記録だ。
8月13日(月)
この日も天気がいまいちだが、僕は次の山があるので帰らなくてはならない。そう告げると、とりあえず25〜30kgくらいの荷物を渡され、広河原山荘においといて、と言われた。
そのまま下るのもしゃくなので、天気がましな朝間の岳を往復した。帰りは八本歯のコル経由で帰る。途中猿が激しい音をさせて頭上50mくらいの斜面を横切っていった。初め落石かと思って緊張したのだが、他のおばちゃんおじちゃんたちはいっこうに気にしていなかった。最初から猿とわかっていたのか、落石という単語が頭にないのか、後者なら近くを歩くのも嫌だな、と思いつつ急ぎ足で下る。でも雨につかまり、せっかく小屋で乾いたものがまた濡れてしまった。
結局行きも帰りも独りだったこのアルバイトは、帰りに荷物が急に重くなる不思議なただの単独行と変わらなかった。山は、北岳も間の岳もまあ良い山。だけどおばちゃんの大群がいるのでやっぱり僕はこういうの苦手だなあ。