夏に一般縦走路から望む聖岳は、秀麗な東尾根を誇示するようにその美しい一面を見せてくれた。秋に偵察で来た東尾根から見た聖岳は、そのピラミダルな姿を誇示するようにどっしりとそびえたっていた。とまどいを覚えるほどの険しい聖岳の一面。そして、冬。山が化粧する時期。聖岳の次なる一面とは・・・?期待と不安の峠から一歩、踏み出した。
25・26日 【東京〜静岡〜(taxi)〜畑薙林道ゲート前〜(4:15)〜聖沢登山口〜(0:50)〜出会所小屋】
世間ではメリークリスマス。そんな中を山へ向かう懲りない面々。私は集合場所に向かう途中、新宿駅で入社予定の会社の同期の女の子に遭遇。バカデカいザックの恥ずかしい格好を見られてしまった。かと思えば直後にアコンカグア遠征から帰国したばかりの明治のKさん&関学のSさんとも出くわす。びっくり。さて、駅にはHWV現役の面々が多数お見送りに来てくれた。もはや冬山のお見送りは夏合宿のそれよりも人が来るような・・・。N師は電車出発5分前まで姿をみせなかったが、かろうじて間に合った。ほっとする。電車の中ではお見送りの品々を囲んで一つ一つ検討する。寝る間もなくあっという間に静岡に到着。
静岡駅に着き、水を補給した後にタクシーで畑薙ダムへ向かう。今回はT氏が25000円という破格の条件でジャンボタクシーを探してきてくれたのである。おかげで今日中に出会所小屋までアプローチすることができた。大感謝。えんえん3時間強もタクシーに乗り続け、ようやく畑薙ダムのゲートまで到着すると雪がちらついており、風も吹いていて寒い。早速準備をして歩き出す。しかし路面がところどころ凍結しており、メンバー3人は次々転倒。T氏までもが前につんのめって倒れたのには思わずびっくりして笑ってしまった。途中、中ノ沢吊橋でK少年が「自発的に」ほふく前進で吊橋を渡りだしたので写真を撮ってあげた。
登山口からはきちんとオーダーを組んで行く。トップは弱冠1年生のK少年。OB2人と4年生2人の中に1年生が参加しているわけで、彼は当然お客さんとしてヒジョーに可愛がられることになる。登山道には雪が薄く積もっている上に急登なので歩きにくいことこの上ないが、程なくしてテン場に到着した。水場は問題なく使える。尾根の取付きを確認してテントの中に入る。雪はちらついたままだ。
27日 【△〜(5:10)〜東尾根合流点〜(2:35)〜2432m付近】
木々の間から星空が眺められる。K少年の「おっはー」の後、気合を入れて偵察の時と同じように尾根に取付く。相変わらず急な登りだし、その上に雪が薄くついているので結構疲れる。I嬢はついてくるのに必死の様子である。荷物も重そうだし・・・。少し登ると稜線まで眺められる地点に出る。そこから見ると、稜線はどうやら真っ白なようである。これで展望を期待できるというものだ。偵察の時につけた赤テープも役に立ち、わりと順調に進んでいく。だんだん雪も深くなってきて、足首から脛のあたりまで潜るようになってくるが、まだ問題はない。むしろ雪が多そうだということで、お見送りの「雪降るスプレー」にいちゃもんをつけて皆で喜んでいた。・・・この時までは。
しかし徐々に雪が深くなってくる。2100〜2200m付近からは膝までの雪になった。13時前にようやく東尾根上に乗る。そして西へと進路を取る。その後一休とって白蓬ノ頭を目指して進んでいこうとするが、積雪がいよいよ膝上〜股下となってきて、ずっとトップをやってきた私の疲れもあり、わかん無しではどうしようもなくなる。深い粉雪の中、わかんを2つしか持ってこなかったことを後悔・・・しても始まらないので、私とT氏がわかんをつけてラッセルを開始。南アルプス特有の粉雪ラッセルに濃いヤブときてはなかなか思うように進めなくなったのも当然か。それにしてもこの雪の量には事前の予想を裏切られた。良い意味でも悪い意味でも。
トップは荷物を置いて空身でわかんラッセル、セカンドも交代でわかんラッセル。三番手にはN師を配して進んでいく。しかし時間は無情にも過ぎていき、白蓬ノ頭まで到底たどり着けそうになかったので、適当に整地してテントを建てることにした。N師とT氏には明日に備えてトレースをある程度伸ばしに出かけてもらった。天気図が完成した後、雪とか天気とかメンバーの調子とか、パーティーを取り巻く現状を認識した上でリーダー層は明日の予定を相談する。結果、9時までに白蓬ノ頭までたどり着けば吊尾根のBPを狙うことにした。着かなかった場合には、森林限界の手前でテントを張ってピークアタックに切り替えることになる。・・・さて、どうなるか。
28日 【△〜(2:10)〜白蓬ノ頭〜(0:40)〜森林限界手前】
やや雲が空を覆っている中で出発の準備をする。しばらくは前日にN師&T氏がつけたトレースをたどっていくが、30分も歩くと再びラッセルを始めなければならなくなる。しかも白蓬ノ頭直下はヤブが今までにも増して濃いので、尾根を外さないルーファイにもひと苦労する。昨日に引き続き私とT氏でわかんを履いて空身ラッセルである。粉雪との格闘を続けて着実に歩を進め、ついに8時30分過ぎ、白蓬ノ頭に到着。残念ながら北方の赤石岳も東方の富士山も雲の中。風が強くて寒い。しかしなかなか充実感がある。
さて、9時前に着いたことは着いたのだが、この雪の状況と今までのパーティーの足並みを考えると、重荷で聖を越えることには不安がつきまとう。そのため、森林限界手前にベースを張って翌日に空身でピークを狙うことにした。相変わらずのラッセルの後、森林限界に到達したので、まだ10時にもならない時間ではあったが、少し戻った所(1/25000地図上で2600と書いてある所の手前付近)にテントを張ることにした。ここで2日間すごすために整地にも力を入れる。そのついで(?)にK少年が私に相撲で戦いを挑んできたが、返り討ちにする。
テント整地の後、上部偵察とトレース伸ばしを兼ねてN師とT氏に2800m峰を上限として偵察に行ってもらう。その間ほかの3人はテントに残って水作り。I嬢のK少年いじりを見て楽しむ。偵察に出た二人が帰ってきたのは15時前だったが、どうやら偵察にかけた時間はそんなでもなく、徐々に天気が良くなってきたことをいいことに写真を撮りまくっていたらしい。二人とも優れたカメラマンだということを忘れていた。さて、秋の偵察の時に苦労した2800m峰に取り付くための沢の横断だが、今回はさっさと北側に降りて沢状地形を渡り、早めに尾根に取り付くことにした。尾根上のハイマツ帯はほぼ雪で埋まっていたが、早めに沢状を渡った方が楽に進めそうということであった。
29日 【△〜(0:50)〜2800m手前〜(2:30)〜奥聖岳〜(0:40)〜前聖岳〜(3:50)〜BP】
いよいよピークアタックの日。自然と力が入る。幸い空も晴れている。オーダーは私・K少年・T氏・I嬢・N師。トレースに沿って進んでいく。徐々に日の出が近くなってくると、雲海の中に富士山が浮かび上がってくる。右手の赤石岳も雰囲気がある。写真では到底味わうことができないナマゆえの感動。ここまで来るのに3日かかっているのでその感動もひとしおである。K少年はしきりに「あーやばい」と連発し、語彙の少なさを自ら暴露している。しかしその気持ちは痛いほどわかるよ、うん。さて、2800m峰手前で日の出を拝むついでにアイゼンと登攀具を着けることにした。やがて富士山が、その周りを取り囲む雲海が、赤石岳が、上河内岳が、聖岳が瞬時に燃えていく。そして息を呑む間もなくその火は消え、穏やかな朝を迎えた。
雪稜を歩き始める。そんなに発達してはいないがナイフエッジ化しているところもあり、I嬢やアイゼン歩行日数わずか3日目のK少年は緊張気味。雪の状況は、表面がクラストしているが足首くらいまで潜る所、アイゼンが気持ち良く刺さる所、岩が出ている所、とさまざまである。風は時々強く吹き付けて寒いが、歩行に困難なほどではない。東聖に登る手前にわりと傾斜がきつく雪壁状になっている所があり、アイゼンの前爪の効きを確認しながら慎重に登る。I嬢は時間がかかっている。登っている時の彼女の顔が「だまされた〜」とでも言いたげな顔だったので悪いことしたかなあ、と思ってしまう。後で聞いたらやっぱりそう思っていたそうで。でも健気に登ってくる。

東聖に登ると、奥聖が威圧しながらも私たちを出迎えてくれた。太陽に照らされたその姿は、雪によってところどころ白くなっていることもあって(陳腐な表現だが)神々しい感じがする。やはり、「聖」の名を付けた人はここから仰ぎ見た聖岳の姿に感銘を受けたのではないか。ここから奥聖までは、雪壁状の所が2ヵ所あった。岩も出ていて緊張する。雪の中からハイマツや岩角を掘り起こしてホールドとし、アイゼンの前爪を効かせて登って行く作業を繰り返す。個人的にはなにやら沢登りに似たものを感じた。雪稜の両側とも切れ落ちていて高度感があり、非常に爽快な登りだ。言いかえれば落ちたら嫌な感じ。特に直下の雪壁は現役部員には難しめだと思う。
そして9時30分、とうとう奥聖の三角点に到達。思わずにやり。こんなに嬉しかったピークはいつ以来だろうか?次いで登ってきたK少年の顔にも笑顔がこぼれている。握手を交わす。程なくして後の3人もやってくる。みんな良い顔をしていた。吊尾根を歩いて前聖まで行く。前聖はK少年にトップで踏ませてあげた。冬の3000m。しかも絶晴れ。360度の大パノラマである。南ア南部はもちろん、北部は仙丈岳の姿も垣間見ることができる。しかも北ア、中アまでその真っ白な姿を見せてくれている。しかも私たち以外に人はいない。冬山独特の雰囲気に思い切り酔わせてもらった。そんなわけで寒風吹きすさぶ中、30分ほど頂上に居座る。OBのお二人も満足している様子。
さて、難所をいくつも越えなくてはならぬので下山を開始する。まず奥聖直下の雪壁だ。ここはハイマツを掘り起こしてアンカーを作り、ロープをフィックスして降りることにした。40mいっぱい使って懸垂する。エイト環は2個しか持ってきてないので私とT氏はハーフクローブヒッチで懸垂する。ラストのN師はロープを回収した後、フリーでクライムダウン。この直後に5mほどの岩場があり、K少年は問題なくフリーで降りたが、I嬢が苦労しそうだったのでT氏に確保してもらって降りさせた。次の雪壁は最初のほどではないが、大事を取ってまたフィックスロープにする。要領は先程と同じ。支点工作にはハイマツや木の枝をいくらでも使えるので、少しでも下降に不安があればロープを使うべきだろう。
東聖で一休。振り返り見る聖はやはり格好いい。再び写真タイム。実は私が一番感動したのはこの時であった。上部を見ても下部を見ても自分がトップでつけてきたトレースを眺められたのだから・・・。冬山の最高の喜び。究極の自己満足なんだけど。この後は急な所もあったが、すべてフリーで降りていった。今回は特に問題はなかったが、上に書いたように、状況次第ではロープを出してもいいかもしれない。テン場に戻ってひと安心である。あとは無事に下山するだけだ。
30日 【△〜(3:10)〜聖沢登山口〜(3:00)〜畑薙ダム登山指導所〜畑薙ロッジ〜(bus)〜静岡】
下山を開始するが、しかし先は長い・・・。今日の予定は聖沢登山口までたどり着くことであった。とにかく、暗い中を白蓬ノ頭まで登り返す。日の出直前の何やら厳粛な雰囲気に覆われた富士山。そして赤石岳。聖岳の稜線もちらちら見える。日の出前の空のグラデーションは昨日にも増して美しい。聖登頂の充実感がそう見せているのだろうか。ここを降りたらもう当分冬山に来ることはないなあ、と思うと余計去りがたい。踏ん切りをつけてヤブの中に突入したが、息を切らせながら歩いているとやがてヤブの切れ間から、昨日以上に真っ赤な赤石岳を拝むことができた。粋なことをしてくれるもんだ。じゃあな、また来るよ。
トレースが残っているので特に苦労することもなくガンガン高度を下げていく。途中登ってくる単独行の人が2人いた。降りていくにしたがって雪が薄くなっていき、多少歩きにくくなっていったが、下山パワーからかペースも相当早い。晴れの日が続いたので下部では雪も相当減っているようだ。その後、なんと10時前には聖沢登山口に着いてしまった。というわけで14時30分のバス目指してそのままロード歩きへ突入することに。I嬢の負担を減らすために私とN師が荷物を多少持つ。そしてあいかわらず早いペースで林道を歩き始める。
しかし畑薙大吊橋まで来た所で13時であり、バスの来る畑薙ロッジまでは間に合いそうにないと判断したのでここでたるむことにした。金はかかるがタクシーを呼んで下山することにしたのだ。というわけで大吊橋でしばし遊ぶ。そして、登山指導所で下山届を提出してまた歩き始めた時であった。指導所にいた県警の車が近づいてきたのである。なんと一橋OBの人がいたらしく、車に乗っけてくれると言う。なんとなんと♪最後まで恵まれているねえ。私たちが一橋のパーティーだと知ってわざわざ来てくれたらしい。ロッジまで送ってもらった。おかげでバスにも乗ることができた。この場を借りて御礼申し上げます。
静岡に降り立った後はひとまず駅の近くの銭湯へ・・・。いや〜実に銭湯らしい銭湯だったんだけど・・・。この山行に見事にオチをつけてくれました(笑)。何があったのかは私とK少年のみぞ知る。まあ、完璧すぎる山行ってのも、ね。その後呑み屋で打ち上げ、OB2人は新幹線、ほか3人は普通に静岡を離れた。20世紀最後の合宿はこうして幕を閉じた。次の舞台はどこだろう?